弁護人の職務の範囲には、様々な考え方があります。
ここでは私個人の考えを書きたいと思います。
刑事弁護人は、刑事事件に関わることができる数少ない人間の一人です。
このことは裁判員裁判が始まった現在でも全く異なりません。
これまでの刑事弁護人たちは、「人権の救済」という点を重視して活動してきたように思います。
この点を重視することは、弁護士である以上当然のことで、否定する気持ちなど全くありません。
しかし、不当な人権侵害がなされないように注意して、しっかりと弁護活動をしさえすれば、それだけで良いのでしょうか?
私は、そうではないと考えています。
少なくとも、刑事事件に全く関わることのない一般市民は、それ以上のことを弁護士に対して期待していると思っています。
「一般市民が刑事弁護人に期待していること」
では、我々弁護士は、一般市民から一体何を期待されているのでしょうか?
そこで、関係してくるのが、「我々弁護士は、刑事事件に関わる数少ない人間の一人」という点です。
刑事事件と全く関わりない一般市民にとって、すでに起きてしまった他人間における刑事事件など、正直どうでも良いことなのです。
一般市民は
「その犯人とされる者が、再び犯罪を犯し、自分が巻き添えにならないか」
という点のみを心配しているものと思われます。
だからこそ、市民の声は、犯罪者に対し、「厳重に処罰しろ」というものが多いのです。
このことは、裁判員裁判において、量刑が重くなってきていることからも明らかです。
結局、一般市民は、犯罪者の再犯を恐れているからこそ、厳重処罰を求めているのです。
このような一般市民の感覚からすれば、
現在における一般市民は、刑事事件に関わる数少ない人間である刑事弁護人に対しては、むしろ、犯罪を犯した者の再犯の防止のための活動を期待しているのではないでしょうか?
「一般市民が犯罪者に対し厳重処罰を求めるようになった理由」
ところで、一般市民が、犯罪者に対し厳重処罰を求めるようになってしまったのは、どうしてなのでしょうか?
これは、これまでの犯罪を犯した者達が、再犯に至ってしまっていたことが大きな原因であることは明らかです。
では、なぜこれまでの犯罪者達は、犯罪を繰り返してしまっていたのでしょうか?
それには、非常に多くの原因、社会構造、矯正処遇の問題なども当然にあります。
しかし、その原因の一つに、
刑事事件に関わる弁護人による
「再犯防止のための活動」の不足
があげられるのではないか、と私は考えているのです。
その理由は、私が弁護士になってから関わった被疑者・被告人らの話や
他の弁護士の活動をみているとそう思えてならないからなのです。
「人間はきっかけさえあれば変わることができる」
「たかだか一つの事件に関わるにすぎない弁護士に何ができるんだ?」とお考えの方も大勢おられると思います。
しかし、人間は本当に少しのきっかけさえあれば変わることは出来るのです。
そして、我々は数少ない刑事事件に関われる人間であり、
そのきっかけになることも十分に可能な立場にあります。
我々弁護人がやらなくて、他に誰ができるのでしょうか?
刑事事件を起こす者の中には、身内の者も誰もおらず協力者なども一人もいないなんてことは頻繁にあります。
また、協力者等がいても、何の役に立たない者ばかりであることも多いのが実情です。
このような刑事事件について、
私たち弁護人が、犯罪を犯してしまった者に対し親身に接し、その者の再犯の防止のためにできることを積極的にやってあげることこそが、犯罪を犯してしまった者のキカッケになり、
その者の再犯の防止につなががるのではないかと、私は考えているのです。
個々の事件でこのようなことを積み上げていくことこそが、社会のためにもなるのではないでしょうか。
したがって、私としては、個々の事件を軽く見ることなく、すべての事件で、再犯の防止を考えた活動をすることが、現在の弁護士に求められている職務であり、刑事弁護人の職務に当然に含まれているものであると思うのです。
「再犯防止のための弁護活動と私の弁護活動」
では、再犯の防止のための弁護活動とはどんなものなのでしょうか?
これは、事件ごとに区々であり、一概には言えないというのが本音のところでしょう。
ただ、言えることは、
再犯の防止のための活動は、刑事弁護活動期間中(判決までの期間)のみで終わることなどはないことがほとんどであるということです。
私は、これまでに数多くの刑事事件を受任してきています。
私は、刑事事件に関わるようになった当初から、被疑者・被告人の再犯の防止という点を常に頭に入れ、弁護活動を行ってきました。
例えば、私の場合、実刑に付された者であっても、出所の時には、必ず連絡するように話しておいて、実際に出所後に、アパートを探し、生活保護の申請に力を貸し、生活の基盤ができるまでは少なくとも協力しています。
このようなケースは1件や2件ではありません。
確かにここまでやってもお金にはなりませんし、弁護士の利益になることは何もないかもしれません。
しかし、再犯の防止に繋がれば、社会が良くなり、喜ぶ人間が潜在的には大勢いるはずなんです。
我々は、あくまで被疑者や被告人のために弁護活動するのであって、
社会や一般市民のために刑事弁護を行うのではないとの声も聞こえてきそうですが、
再犯の防止のための活動は、もちろん一番利益を受けるのは被疑者被告人であることは間違いないものであり、矛盾するものではありません。
我々は、国選弁護等の場合、国から費用を出してもらっています。
社会から費用をもらっている以上、社会のためにもなる弁護活動を行う事は当然なのではないでしょうか?
お問い合わせは、
プロスペクト法律事務所
弁護士 坂口 靖 まで
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