一般の方は、第一審で出された判決も、控訴(第二審、高裁)すれば、判決が変わることなんて
頻繁にあることくらいに思っているかもしれません。
確かにテレビとかみてると、控訴審で逆転無罪とか、逆転有罪とかのニュースしか取り上げていないことから
そのような印象を持ってしまうのも仕方のないことなのかもしれません。
しかし、実際の裁判では、控訴審で第1審の結論が変更される確率というのは、極めて低いというのが現状です。
簡単に言うと、控訴審で判決が変わることはほとんどないくらいに思ってもらっても良いと思います。
特に自白事件においては、控訴審で刑が軽くなることはほとんどないくらいに思っておいた方が良いです。
刑事弁護に関する本などでは、9割の事件は控訴棄却(判決変更なし)なんて書いてあったりします。
「えっ?そうなの?」と驚かれる方もいるかと思いますが、
第1審においても裁判官が頭を悩ませて、良く考えた上で判決を書いている以上、
ちょっとやそっとの事情じゃ、判決を変更することなどないのです。
また、
控訴審は、いわゆる事後審というやつで、
第1審弁論終結時に存在した事情を前提として、その第1審判決が妥当であるのかどうかを判断するものになっており、原則として、新たな証拠などの取り調べはできません。
弁護人としては、第1審にて存在した証拠などから事実を拾い上げ、事実誤認や量刑不当などの主張を行っていくことになることから、
第1審弁護人が主張していた以上の主張を控訴審で新たに行うということはかなり困難であったりします。
このようなことから、結局、第1審と同じ結論になってしまうのです。
では、自白事件の控訴審で判決が変更される場合とはどのような場合なのでしょうか?
これは、裁判官の立場になって考えてみると、結論は導かれるように思います。
裁判官は、一度判断している以上、同じ事実と同じ証拠からは同じ結論しか導き出せないといのも仕方がありません。
そこで、裁判官に対し、第1審時においては裁判官が知らなかった新事実を示してあげれば、
判断の基礎となる事情が異なることから、裁判官は結論を変更しやすくなるのです。
そこで、第1審判決後に生じた事由については、証拠調べが例外的に認められていることから、
その証拠調べを求め、結論を変更してもらう判断の材料にしてもらうことになるのです。
では、端的に、判決が変更される新事実とは一体なんなのでしょうか??
それは、もっとも重要な事情として取り上げられているのは、「示談」です。
正直言って、自白事件の控訴審では、示談なくして判決変更はあり得ないと思っても良いくらいです。
逆に言うと、示談ができない犯罪や第1審時においてすでに示談をしていた場合には、
控訴審で判決が変更される可能性はほとんどないと言えます。(もっとも、そのような場合に判決が変更される場合としては、法令違反に当たる場合などは考えられます。)
したがって、控訴審の弁護人としては、示談の成立を目指し、被害者と交渉することが重要になってきます。
では、示談以外の活動としては、何が重要になってくるのでしょうか?
示談以外の活動としては、ケースバイケースであり、一般論として語ることは難しいとしか言えないところです。
そこで、私の経験した控訴審弁護活動を簡単に紹介したいと思います。
私が経験した事案は、自動車運転過失致傷事件(犯行態様は悪く、被害者も複数、厳罰希望、重篤な後遺障害残存)で、第1審は他の弁護人が担当し、実刑判決でした。
で、控訴審から私が受任し、弁護活動を開始し、控訴審判決は、執行猶予付き判決となりました。
この事件においても、示談は未了でしたので、示談のための話し合いをしようと試みましたが、全く連絡さえとらせてもらえませんした。
この時点で判決変更の可能性は、極めて低い事案でした。
私は、頭を悩ませ、何かできることはないかと考えました。
そして、とりあえずはその依頼人を知るために、依頼人の人となりがわかる資料を徹底的に集め始めました。
その中で、私は、依頼人はそれまでの人生をかなり真面目に生活してきた人であると強く感じてきました。
私は、そのことをどうにか裁判所に理解してもらい、
今回の事件は、本当にたった一度の過ちにずぎず、依頼人であれば十分に更生していけるということを立証しようと考えました。
そこで私は、ほぼ法律無視で証拠になりそうなものは全部証拠請求しました(例えば、高校の通知表なども)。
控訴審では、事前に(同意、不同意関係なく)証拠を裁判所に提出しますので、裁判官が事実上でも証拠を見てくれることが重要だと考えたからです。
実際の公判期日では、証拠の取り調べは行われないものばかりでした。
しかし、被告人質問と情状証人である母親の尋問(自白事件の控訴審では、時間は限定されるものの、被告人質問と情状証人調べくらいは認めてもらえる。)にて、それまでの生活歴などについても話してもらいました。
裁判所としては、事実上証拠をみていますので、被告人や証人の話を素直に信じることができたものと思われます。
このような活動の結果、結論は第1審の判決を変更し、執行猶予付きの判決を得ることができました。
示談もできず、被害者は第1審時と同じように厳罰希望である中、大変うまく弁護活動ができた事案だったと思っています。
このように、その事件、その依頼人に即した活動を臨機応変に行うことが求められるのが控訴審の弁護であると思っています。
なお、この事件においても、第1審時に、私と同じような活動を弁護人がしておいてくれれば、実刑は回避されたものと思われます。
しかも第1審においては、証拠制限はないことから、もっと容易に依頼者の人格を立証することができたはずです。
このようなことから、私は、第1審の弁護活動の重要性を改めて認識させられたのをよく覚えています。
私も、私の担当事件の控訴審の弁護人に同じように思われないように、
控訴審の弁護を経験してから、それまで以上に第1審の弁護活動に力が入るようになりました。
刑事弁護をやっていこうという弁護士は、控訴審弁護は絶対に経験しておくべきです。
お問い合わせは、
プロスペクト法律事務所
弁護士 坂口 靖 まで
コメント